大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和44年(ワ)606号 判決 1970年2月23日

原告

石浜一平

ほか一名

被告

田中久彦

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

原告は、「被告は原告らに対し各金一五〇万円及びこれに対する昭和四二年一一月一五日から完済まで、年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言。

被告は、主文同旨の判決。

第二、当事者の主張

(原告の主張)

一、訴外亡石浜直己(以下、被害者という)は次の交通事故により死亡した。

(一) 日時 昭和四二年一一月一四日午前六時半頃

(二) 場所 三重県一志郡三雲村市場庄地内国道二三号線上

(三) 加害車 訴外太田昌男運転の大型貨物自動車

(四) 態様 被害者が自動三輪車(名古屋六め五一二六号)(以下被害車という)を運転し名古屋方面から伊勢市方面に進行中、折から対進し来つた加害車と衝突。

二、被告は加害車を自己のため運行の用に供していた者であるから、自賠法三条の責任。

三、損害

(一) 逸失利益 二七一万三、三二〇円

被害者は当時二〇歳の健康な男子で原告一平の営む鮮魚店の店員として一カ月二万円の給与を得ていた。そして、被害者の生活費を収入の半分とすると同人の年間純益は一二万円となる。ところで、同人は平均余命の範囲内たる六三歳までの四三年間十分に就労し得たから、これにホフマン式計算法を施し現在価を求めると、金二七一万三、三二〇円となる。

しかして、原告らは被害者の両親であるから、右請求権を相続分に応じて各一三五万六、六六〇円宛承継取得した。

(二) 原告らの慰藉料 各二〇〇万円宛

四、よつて、原告らは被告に対し、前記各三三五万六、六六〇円の内金各一五〇万円及び、これに対する本件事故発生の日の翌日たる昭和四二年一一月一五日から完済まで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告の主張)

一、原告主張の日時場所において、被害者運転の被害車が、太田の運転する加害車に衝突し被害者が死亡したこと、被告が加害車の保有者であることは認めるが、その余は争う。

二、被告は相賠法三条但書の免責を主張する。

被害者は前夜午後一〇時過ぎに就床し本件事故当日は午前三時過頃起床して被害車を運転して名古屋市から伊勢市に向け国道二三号線を南進していたのであるが、睡眠不足のため、本件事故現場附近で居眠り運転をなし、ために中央線を突破して対向車線上に侵入して進行するに至つた。太田は、自己の進路上に被害車が侵入してくるのを認めたので、危険を感じ直ちに、加害車を道路左端に寄せて急停車した。しかるに、被害車はそのまゝ進行して停車した加害車の正面に衝突したのである。このように、本件事故は被害者の一方的過失に起因して発生したものであり太田は無過失である。そして、加害車には構造上の欠陥または機能障害はなかつたのである。

仮に、しからずとしても、被害者の過失は明らかであるから過失相殺を主張する。

第三、証拠〔略〕

理由

一、原告主張の日時場所において被害者の運転する被害車が、太田の運転する加害車と衝突したこと及び被告が加害車の保有者であることは当事者間に争がない。

二、そこで、被告の抗弁について検討する。

〔証拠略〕を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  本件事故現場は、三重県一志郡三雲村市場庄一一三四―二番地先(郊外地)を南北に通ずる国道二三号線上である。右国道は幅員七・五米、平坦、乾燥のコンクリート舗装道路で中央にセンターラインが表示されている。本件現場附近の国道は数粁に亘り直線で障害物はなく見通しは良好である。なお、制限速度は六〇粁である。事故当時は夜が明け天気も快晴で前照灯の必要もない状態であつた。

(二)  太田は、前記日時加害車を運転して右国道を時速約四五粁で北進していた際、前方約五〇〇米に被害車が対向してくるのを認めた。当時、被害車は、道路左側を南進し被害車の走行には何らの危険も感じられなかつたので、太田は、時速を約五〇粁に上げ北進を続けたところ、被害車と約百数十米に接近したとき、被害者の居眠りのためか、被害車がセンターライン附近を蛇行してくるのを認め直ちにエンジンブレーキをかけ、約八米進行した際、前方四・五〇米に被害車がセンターラインを超え相当高速で加害車の進路に侵入してくるのを認めた。太田は瞬間、ハンドルを右に切り右側車線(被害車の進路)に逃げることを考えたが、被害車の後方から大型貨物自動車が接近してくるのを認めたので直ちに急ブレーキをかけるとともにハンドルを左にきり道路左側に寄つて急停車し、加害車の正面に迫つて来た被害車に対しクラクションを吹鳴して警告した。しかし、瞬時にして、被害車は加害車と正面衝突するに至つた。

以上の事実によると、本件事故は、被害者の居眠り運転によるセンターオーバの一方的過失に起因して発生したものであることが明かであり、太田には何らの過失も認めることができない。

そして、本件口頭弁論の全趣旨によると、加害車には構造上の欠陥または機能障害のなかつたことが認められる。

してみると、被告の抗弁は理由がある。

三、よつて、原告らの請求は失当として棄却すべく、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 可知鴻平)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例